【怖い話】長靴の落とし物

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俺の友人・オカノは、オカルトに魅了された男。

 

小さな頃から心霊番組を見まくっていたそうで、オレと出会った大学時代には、友人数名でオカルトサークルを作るほどハマっていた。

 

何度か勧誘されたのだが、俺は幽霊だのポルターガイストなどを信じていない。

だから、誘われるたびに断ってきた。

  

 

オカノとの関係は、実に微妙。

会話こそするものの、オカルトのことになると必ず意見が衝突していたから、仲がいいとは言えなかっただろう。

 

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俺がオカルト否定論者すぎるからか、オカノは俺にいわくつきの代物を見せてくるようになった。

 

心霊写真やら、呪いの仮面やら、数十品は見せられたと思う。

 

それは大学を卒業して5年経つ今も続いていて、その頻度はどんどん高まっている。

今日もオカノから、LINEでくだらない「品評会」のお誘いがきた。

 

『今度こそ本当にヤバい物が見つかった!お前も超常現象を信じずにはいられないだろう!』

 

もちろん過去一度として、オカノの言う本物を見たことはない。

 

それでも俺は、オカノの品評会にはとりあえず行く。

目的はひとつ。

オカノのオカルト理論をボロクソにけなしたいからだ。

 

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俺が働いている会社は、いわゆるブラック企業

残業時間は長いし、上下関係が厳しい社風で、社内ではいつも誰かの怒号が飛んでいる。

 

俺も、直属の上司から何度理不尽な叱られ方をしたことか。

 

パワハラ地獄の中で溜まっていくストレスを、俺はオカノの品評会で発散している。

アイツのオカルト理論を真っ向から論破してやるのだ。

 

オカルト現象なんてありはしないのだから、オカノがどれだけ理論武装しようが穴だらけ。

俺が負けることはまずありえない。

 

論破した後の、オカノの泣きそうな表情を見るとスカッとする。

俺の上司も、毎日こんな感覚を味わっているのかもしれない。

 

オカノは俺にとって、サンドバッグでもあるのだ。

 

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とある日曜日の昼下がり。

俺は新宿駅近くの喫茶店でオカノを待った。

 

オカノが俺を呼び出す時は、だいたいこの店を選ぶ。

いつも満席に近くて、店内はザワザワしているから、俺たちが怪しいオカルト話をしていても誰も気にしない。

 

遅れること10分。

サンドバッグがやってきた。

こちらはいつでも殴れるよう、心のグローブは装着済みである。

 

『いやぁごめん!遅れた!昨日準備したはずなのにどこかいっちゃって。探すのに手間取ったんだよ。あ、例の品物のことね』

 

遅れて来たことを詫びてるはずなのに、オカノの顔は自慢げである。

相変わらずムカつく顔だ。

 

でも、コイツがムカつく顔をするほど、その鼻っ柱をへし折りたいという俺のモチベーションはどんどん高まる。

 

「早く見せろよ、その本物ってやつを」

 

俺の拳は、目の前のノーガードサンドバッグ野郎を叩きたくて疼いている。

そんなことに気づかないまま、オカノは話を続ける。

 

『慌てなさんな。その前にひとつ聞きたいんだけど、道を歩いてて「どうしてこんな物落とすんだよ?」って思う物を見たことないかい?』

 

「っていうと…あれか?片方だけ落ちてる軍手とか?」

 

オカノが笑みを浮かべる。

 

『そう!まさに!普通軍手って落とさなくないか?しかも片方だけって、どういう状況なんだろうな?』

 

「引越し業者が落としたんじゃねーの?まさかそれが幽霊の仕業とかいうんじゃないだろうな?」

 

だとしたら論理が飛躍しすぎてて、殴り合う気すら起きない。

俺がやる気のない表情を浮かべたのを見て、オカノはさらに笑顔を強める。

 

『甘いね。そんなことで俺がキミを呼び出すと思うか?幽霊の仕業じゃないよ。かと言って人間の仕業でもない』

 

「じゃあ何だよ」

 

『妖精だよ』

 

唖然としてしまった。

幽霊も妖精も、俺からしたら変わりない。

今回は俺の不戦勝に終わりそうだ。

 

「さすがのオカルトオタクもネタ切れか。こんな調子じゃ、例の品物を見るまでもないな」

 

『ちょっと待ってよ!わかったから、とにかくこれを見てくれ』

 

オカノは背負って来たナップザックから、一足の長靴を取り出し、テーブルの上に置いた。

真っ黒な男性もの、サイズ的に25cmくらいだろうか。

新品ではなく、誰かが使ったもののようで、泥で汚れている。

 

長靴を眺め、不思議そうな顔をする俺を見ながら、オカノは話を続ける。

 

『3日前、会社帰りに見つけたんだ。交差点の近くに落ちててさ。これも変じゃないか?長靴の片方だけを落とすなんて。で、拾ったら案の定さ』

 

俺は長靴を手に取ってみた。

だいぶ汚れているが、ごく普通の長靴である。

空中で動かしてみると、中に何か入っているのに気づいた。

 

『出してみろよ』

 

オカノが勧めるように、長靴を振って中に入っている物を机に出してみる。

 

干からびかけた、小さな裸の人間が出てきた。

すでに死んでいるのだろう、動く気配はない。

大きさは胎児くらいしかないが、顔を見ると中年男性のように見える。

 

俺は思わず「わっ!」と声を上げてしまった。

一瞬、他の客や店員の注意が俺に集まる。

顔と声のトーンを少し下げて、オカノにこの謎の物について質問してみた。

 

「何だよこれ…人形か?お前俺を驚かせたいからってタチの悪いことを…」

 

『違うよ。これは俺が拾った時から長靴の中に入ってた。たぶん妖精の亡骸だよ。ほら、よく芸能人がテレビで「小さいおじさんを見た」とか言ってるだろ?それってコイツらのことなんじゃないかな?』

 

確かに、人形にしては精巧に出来すぎている。

触った感触からしても、作り物ではなさそうだ。

 

しかも、オカノは芸術の才能ゼロ。

ネコの絵すらまともに描けない男に、妖精の人形は作れないだろう。

 

オカノは続ける。

 

『きっとコイツらは、人間のものを少しずつ盗んで生活してる妖精の一族なんだよ。でも小さいから外敵が多すぎる。で、コイツは長靴を運んでる最中に死にかけ、身を隠そうとして中に入ったが絶命した…と俺は予想する』

 

オカノの言ってることは、やはり破茶滅茶だ。

しかし、目の前にある亡骸がオカノの予想を裏付けている。

 

このままだと、俺は初めての敗北を経験することになる。

しかも完璧なKO負け。

オカルト否定論を根本から覆されそうな状況である。

 

反論が思い浮かばず、黙り込む俺を見て、オカノは勝者の笑みを浮かべている。

 

『おやおや?いつもの反論はどうしましたかな?今回ばかりは信じずにはいられないようだね?』

 

腹が立つ…オカノとの討論こそ俺のボクシングリングだったが、本当にコイツの顔面を殴ってこのカフェをリアルファイトの場にしたくなった。

 

しかし、それこそ俺の負け。

一番惨めなルール違反。

今回の試合は負けを認めるしかなかった。

 

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オカノは机に置いた妖精の亡骸と長靴をナップザックにしまい、席を立った。

 

『いやまぁ、俺もムキになってしまったよ。ここは俺が奢るから、そんな怖い顔しないでくれ』

 

悔しさが顔に出てしまっていたのか。

本当に惨めな敗北だ。

 

レジに向かうオカノの背中を見た。

何だか自信に満ちているようで、違和感を感じる。

 

 

徐々に俺は、違和感の正体がオカノの自信だけではないことに気づいた。

何かがついている。

よく見るとそれは、長靴から出てきたのと似た妖精だった。

 

オカノの着てる服の襟首、ズボンの尻ポケット、裾など、至る所に妖精がくっつき、頭を出したり引っ込めたりしている。

襟についた1匹が俺の方を見てきた。

 

オカノは気付かぬまま会計を済ませ、店を出て行った。

 

俺はオカノを追いかけようとは思わなかった。

それは、俺の方を見た妖精が、俺を黙らせた時のオカノと同じ勝者の顔をしていたから。

嫌な予感がした。

 

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その日以来、オカノとは連絡が取れなくなった。

 

知人から聞いた話では、家族や職場に連絡もなく、家もそのままにして失踪してしまったのだとか。

 

電話をかけてもつながらない。LINEの既読もつかない。

俺の頭に、喫茶店で見た妖精の顔が浮かんだ。

 

仲間の死体を持つオカノを見つけ、妖精たちがオカノに何かしたのかもしれない。

そしてオカノは、妖精たちに運ばれてしまったのだろう。

アイツが拾った長靴のように。

 

所詮はオカルト否定論者の俺の予想、ハズれていることを願う。

【怖い話】怪現象が起きる部屋

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俺の名前はモリカワ。ブログの更新が趣味の会社員だ。

今日は車である場所へ向かっている。

 

俺の運営しているブログというのが、幽霊や怪現象についてまとめた、いわゆる「オカルトブログ」。

かれこれ2年くらい続けている。

 

家でじっとしていても心霊ネタはなかなか入ってこない。

だから、土日は心霊スポットまで車を走らせるのだ。

 

普段はうだつの上がらない会社員である俺。

でも、心霊スポットに行く日は、ライターとして取材に行く気分。

すこぶる楽しい。

 

もちろん、俺の取材は趣味にすぎない。

1円にもならないのが少し残念である。

 

オカルト好きな俺だが、一人で心霊スポットに行く勇気はない。

怖いものは怖いのだ。

そんな時、必ず誘うのが、助手席に座っているイソノ先輩。

 

イソノ先輩は、俺が大学時代に所属していた演劇サークルの先輩で、無職だ。

俺の友人たちは、みんな社会人になって毎日忙しい。

貴重な土日は自分のために使いたいと考えているだろう。

そんな彼らに「心霊スポットへ行こう」なんて言っても乗ってこない。

 

しかし、このイソノ先輩は違う。

毎日暇だから、誘えばすぐに来る。

大学時代はそれほど仲良くなかったのだが、卒業してからというもの、異様なほどに親密になった。

 

卒業後も無職で、何もしていないイソノ先輩を俺は心底見下していた。

だが、今となっては、誘うと必ずYesと答えてくれる彼の存在はありがたい。

 

もうひとつ、俺がイソノ先輩を誘うのには理由がある。

それは後ほどお話ししよう。

 

ーーーーーーーーーー

 

今日向かっているのは、お化けトンネルとか廃病院とか、そういう類の場所ではない。

俺のいとこの家だ。

 

数日前、いとこから連絡があった。

最近住み始めた家で、不可解な現象が毎日起きるのだという。

 

どこからともなく音が聞こえる

物が勝手に動く

家の中で見知らぬ女性の姿を見かける

 

ただ、それらが心霊現象なのか、それとも気のせいなのかよくわからないらしい。

 

俺がオカルトブログを運営していることを知り、家で起きている現象について調べて、判断して欲しいと連絡してきた。

 

いとこの家に行くというだけなら、特に緊張はしない。

でも、いとこの家が心霊スポットかもしれないと考えると、心臓が高鳴る。

いいブログネタになりそうだ。

 

車内では沈黙が続いていた。

そんな中、イソノ先輩が口を開いた。

 

『おいモリカワ、今回の獲物はどんなヤツなんだ?』

 

「獲物…?ああ、お化けのことですか?いやわからないです。そもそもお化けがいるのか判断するために行くんで」

 

『そうか…モリカワよ、今回のクライアントについて聞いてなかったが、教えてくれないか』

 

「クライアント…?俺のいとこですか?俺の1歳上だから、25歳の女の子ですよ。会うのは今年の正月以来なんで…半年ぶりくらいですかね」

 

『ほう、女か。つまり俺たちは、霊現象に苦しむビーナスを救い出す、ゴーストハンターってことだな』

 

このように、イソノ先輩はだいぶ面倒くさい。

正直、この人以外についてきてくれる人がいるなら、俺はその人と組みたい。

初対面の相手だったとしても、イソノ先輩を切る。

 

イソノ先輩は続ける。

 

『その女、彼氏はいるのか?』

 

「彼氏どころか、旦那さんがいますよ。高校卒業してすぐ結婚しましたね。6歳の子供もいます」

 

『ふんっ、こぶ付きには興味ないぜ』

 

もしかして、いとこを狙っていたのか?

働きもせず、心霊スポットばかり行っているヤツがそう簡単に恋人を作れると思っているのなら、どうかお亡くなりになってほしい。

 

余計なことを考えている暇があったら、幽霊が出た時のために念仏の練習でもしてもらいたいところだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

数十分後、いとこの家に到着した。

10階建てマンションの5階にある。

いとこと旦那さん、お子さんが出迎えてくれた。

 

謎の現象は夜に起きるらしい。

今夜、いとこたちは旦那さんの実家で過ごすとのことで、俺とイソノ先輩が家に残ることになった。

 

間取りは3LDK。

玄関から4〜5mくらいの廊下があり、廊下と部屋を仕切る扉がある。

扉の奥にダイニング、その奥に、横並びに2つ部屋がある形。

 

怪現象が起きるのは、キッチン付近やリビングだそうだ。

とはいえ、どういう条件で怪現象が起きるかわからないので、待つしかない。

 

俺とイソノ先輩は、ダイニングにあるテーブルで、行きに買ってきたコンビニ弁当を食べることにした。

 

ーーーーーーーーーー

 

イソノ先輩は口数が少ない方だ。

特に食事中は全くしゃべらない。

 

俺もそれほど話上手ではないから別に構わないのだが、幽霊が出るかもしれない部屋で会話しないままでいるのは、さすがに怖い。

 

俺はイソノ先輩に話しかけた。

 

「ここ初めて来たんですけど、結構いい部屋ですよね。旦那さん、稼いでるんだろうなぁ。イソノ先輩も見習った方がいいですよ」

 

『ふんっ…モリカワよ。お前本当にオカルトブログの運営者か?いい加減気づけ、もう戦いは始まってるんだぜ』

 

なんでいつも面倒くさいんだろうこの人は。

この家の怪現象が全部イソノ先輩の家で起きればいいのに。

 

いつも通り心の中で悪口を吐く俺だったが、イソノ先輩の言うように、重要なことに気づいていなかった。

 

『俺の後ろの食器棚、見てみろ』

 

イソノ先輩の後ろには、ガラス張りの食器棚がある。

棚の下から2段目、ちょうど俺が座った時の目線と同じくらいの高さに茶碗が置いてある。

その茶碗が、ズズズズと、右のほうへスライドしている。

 

イソノ先輩は「霊感はない」と言っているが、霊現象を体験することの多い、いわゆる「引き寄せ体質」な人である。

今回も無事引き寄せてくれたらしい。

 

さっき伝えなかった、俺がイソノ先輩を心霊スポットに誘う理由。

それは、彼の「引き寄せ体質」だから……ではない。

 

俺は茶碗から目をそらし、イソノ先輩の方に視線を戻した。

 

「もしかして…」

 

『ああ、奴さんのお出ましだな』

 

コンビニ弁当を乗せていた机がひとりでに揺れ始めた。

同時に、キッチンにある調理器具や食器が揺れ、床に落ちる。

部屋の照明が明滅する。

 

ポルターガイスト

この家で起きているのは、間違いなく霊現象だ。

 

何もできず、慌てる俺たち。

1分くらい現象が続き、ピタッと収まった。

 

俺が重い口を開く

 

「決まりですね…ここで起きているのは」

 

『静かにしろ!まだ終わってない。いやぁ…むしろここからが本番のようだ』

 

ニヤリと笑うイソノ先輩の視線は、俺の背後に向いている。

俺の後ろにはリビングがある。

 

俺は恐る恐る振り向いた。

リビングに置かれたテレビの奥に、長い黒髪の女性が立っている。

 

髪の間から、女性の目がこちらを向いている。

目が合っただけで総毛立つほど、殺意に満ちていた。

 

俺は全速力で廊下へ向かった。

ダイニングを出ると、扉を勢いよく閉めた。

中にイソノ先輩を閉じ込める形になってしまったが、構わない。

 

『おい!モリカワ貴様!おい!モリカワ!モリカワァァァ!!」

 

部屋の中からイソノ先輩の怒号が聞こえる。

 

「すみませんイソノ先輩!犠牲になってください!」

 

俺がイソノ先輩を心霊スポットに誘うもうひとつの理由。

それは、最悪の事態に陥ったらこの人を犠牲にすればいいと考えているからだ。

 

働きもせず、実家暮らしなのに家事も手伝わず、近所の公園で小さい子供たちと遊ぼうとして警察に通報されている…

イソノ先輩の私生活はよく知っている。

 

そんな彼が幽霊によって地獄に連れて行かれても誰も困らないだろう。

俺は、スケープゴートとしてこの人を選んだのだ。

 

『おいモリカワ!お前が霊と対面しなくてどうする!ブログはどうなるんだ!おい!』

 

イソノ先輩は機関銃のように言葉を発している。

 

「アンタさっき笑ってたんだから、何とかできるでしょ!ブログネタとしては現時点でもう十分だし!」

 

絶対にこの扉を開けてはならない。

俺はドアノブを握る手にこれでもかというほど力を入れた。

こんなに力を入れるのは、母親の産道を通って生まれて来た時以来かもしれない。

 

「彷徨う悲しき魂よ!その男を道連れに現世から去りたまえ!この家と家族を解放するのだ!」

 

『モリカワ貴様!!俺を勝手に捧げるんじゃあない!』

 

イソノ先輩が力一杯扉を叩く。

でも俺は絶対に開けない。

 

「俺は明日大事な商談があるんです!!だから死ぬわけにはいかないですよ!くたばれイソノ!!」

 

『貴様呼び捨てにしやがって!先輩だぞ!』

 

扉越しの攻防がしばらく続いたが、突然イソノがドアを叩くのをやめた。

 

『おい霊、話せばわかるはずだ。お前も人間だったんだろう。何が目的なんだ?話を聞かせてくれ』

 

イソノは幽霊と交渉し始めた。

そんなことできるわけない。イソノは取り憑かれて、おかしくなってしまったのだろう。

 

ならば、なおさらここから出すわけには行かない。

密室を作り、バルサンか何かをたいてイソノごと除霊することが、みんなの平和につながるだろう。

 

イソノは続ける。

 

『そうか…そうだったのか…それは辛かったな。大丈夫、あの家族には伝えるよ。お前は、ゆっくり暮らすといい』

 

話が通じている…?

いや、イソノの演技かもしれない。

 

俺たちは元々演劇サークルの先輩後輩。

プロには遠く及ばないといえど、そこそこのクオリティで演技はできる。

 

最初は怪しんだ俺だったが、イソノの口ぶりは演技とは思えなくなってきた。

演劇サークルだったからこそわかる。

本気の口調だ。

 

そして、イソノは再び俺の方に話しかけてきた。

 

『モリカワ、もう大丈夫だ。開けてくれ。今回の一件、解決策が見つかった。お前のいとこ一家と話をしよう』

 

開けていいものか…開けた瞬間襲いかかっては来ないだろうか…

しかも、どさくさに紛れて呼び捨てしたから、幽霊とは別件で叱られるかもしれない。

 

それでも扉を開けないと埒が明かない。

俺はイソノを信じて扉を開けることにした。

 

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イソノ先輩の話だと、あの女性の幽霊は元々いとこの家に住み着いており、幸せそうな一家が引っ越してきたから、嫉妬で脅かそうとしていたらしい。

 

そんな折、俺たちがやってきたものだから、除霊されるのではないかと思い全力で攻撃したそうだ。

 

いとこ一家が引っ越せば、もう何もしないとのこと。

 

この件をいとこに話したら、すぐに引っ越しを決めてくれた。

引っ越しが完了するまであの部屋で暮らしていたそうだが、その間、怪現象は全く起きなかったと後日聞いた。

 

イソノ先輩は、本当に幽霊と会話したのかもしれない。

 

どれだけクズのような人間にもひとつくらい才能があるもの。

イソノ先輩には、霊と交信する才能があるのかもしれない。

 

本人に聞いてみると、当時のことは「よく覚えていない」らしい。

 

とりあえず、呼び捨てしたことも忘れてそうなので、俺は一安心した。 

【怖い話】1分前の目覚め

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7:29

目が覚めた。

 

昨日の夜、俺はスマホのアラームを7:30にセットした。予定より1分早く起きてしまったことになる。

 

出勤前の忙しい朝、1分でも時間は惜しい。

それと同時に、1分でも長く寝ていたいという気分にもなる。

 

とにかく予定の時刻には無事起きられたので、身支度を始めた。

 

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このアラームの1分前に起きる現象、実はここ1週間毎日続いている。

今の部屋に引っ越してきた翌日の朝から始まった。

1週間も立て続くと、ただの偶然とは思えない。

 

それまでの俺はというと、アラームが鳴っても気づかないか、消して二度寝してしまうこともしばしば。寝坊とは小さい頃からの大親友。

友人との待ち合わせはもちろん、週に1〜2回は会社の出社時間にも間に合わない遅刻魔だったのだ。

 

先日は、俺の寝坊が原因でデートの待ち合わせをしていた彼女を怒らせてしまった。

2時間半も遅刻したのだから、怒るのも無理はない。

 

ーーーーーーーーーー

 

俺はこれまでに、4人の女性と付き合ってきた。

今の彼女は5人目。

 

過去の女性4人とも、別れた原因は俺の寝坊による遅刻だった。

一番ひどい別れ方をしたのは、4人目の彼女だろう。

 

去年の冬、東京23区内にも雪が降るほど寒かったある日。

当時の彼女と、渋谷でデートの待ち合わせをしていた。

 

しかし、俺は6時間の大遅刻。

お昼の待ち合わせだったのに、目が覚めたら外が暗かった。

前日、会社の飲み会でオールしてしまったのが原因だ。

 

しかも、彼女には「突然体調が悪くなった」と嘘の連絡を入れて、約束をすっぽかしてしまった。

彼女はバカ正直に外で俺を待っていたそうで、翌日ひどい風邪を引いたらしい。

いや、バカ正直なんて、遅刻した俺が言う資格は無い。

 

その罪悪感から彼女とは顔合わせる気になれず、俺の方から一方的に連絡を絶ってしまった。

 

それでもまた遅刻を繰り返す俺は、救いようの無い人間なのかもしれない。

 

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そんな俺にとって、起きたい時間にちゃんと起きられるのは正直ありがたい。

アラームの時刻まで寝ていたい気持ちもあるが、遅刻するくらいならましだ。

 

しかも、ここ1週間は二度寝もしていない。

アラームの1分前に起きると、眠気はすっかり消えてしまうのだ。

 

寝坊の常習犯である俺が、毎朝キチンと出勤してくるものだから、最近は上司の機嫌もいい。

遅刻しないなんて当然のことなのだが、俺からしたら天地がひっくり返るくらい劇的な変化だった。

 

まるで誰かが、これ以上寝坊で失敗しないよう俺を起こしてくれている。そう感じた。

幽霊の仕業なのだろうか?だとしたら、とても心優しい幽霊がいたものだ。

 

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ある日、大学時代の友人が俺の引っ越し祝いで家に遊びに来た。

お酒を飲むことになったが、明日は特に予定はないので遅刻の心配もない。

 

お酒がすすみ、ふと友人に最近の出来事を話してみることにした。

 

『ここに引っ越してきてからさ、スマホのアラームの1分前に必ず目が覚めちゃうんだよ。なんか不思議じゃね?」

 

『はぁ?まさか幽霊がモーニングコールしてくれてるとでも?お前、そういうオカルトなこと信じないって言ってたよな?』

 

『そうだけど……何日も続いてるから気になってさ。偶然なのかな…』

 

『もし幽霊が起こしてくれてるなら、お礼言わなきゃな!遅刻大魔王のお前がちゃんと起きるなんて、すごい力を持った幽霊だぞ!』

 

『まぁ……確かにそうだな!最近マジでありがたい!おい!幽霊か何か知らないけど、いつもありがとな!』

 

二度とするなよ

 

俺の声でも友人の声でもない。

低い女性の声が、俺の背後から聞こえた。

友人にも聞こえていたそうで、気味悪がって帰ってしまった。

 

友人が帰った後、風呂に入るために服を脱ぐと、俺の右肩に手のひらで掴まれたようなアザができていた。

今まで気づかなかったのが不思議なくらい濃くついている。

 

俺がアラームより早く目覚めていたのは、このアザが関係していたのかもしれない。

何かに掴まれる、その刺激や緊迫感で俺は目を覚ましていたのかも。

 

遅刻癖の治らない俺を優しく起こしてくれる幽霊を想像していたが、とんでもない。

あの声の主は、俺が今まで遅刻によって迷惑をかけてきた人たちの、負の感情が生み出した存在だったのかもしれない。

 

俺の脳裏に4人目の顔が彼女がよぎった。

 

ーーーーーーーーーー

 

7:30

スマホのアラーム音で目が覚めた。

 

今朝は、あの声の主は起こしてくれなかったようだ。

いや、もう起こしてくれなくて構わない。

 

俺はすぐさま、近所の不動産屋に向かった。

 

アラームの1分前に目覚めてしまう現象は、今の部屋に引っ越してきてから起きた。

ということは、あの部屋から出れば、謎の現象から解放されるかもしれない。

 

幸運なことに、新しい部屋はすぐ見つかった。

予想通り、部屋を変えてからは、アラームより前に目覚めることもなくなった。

 

それと引き換えに、俺は元の遅刻大魔王に戻ってしまった。

【怖い話】夢と現実の狭間

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数年前、暑い夏の夜。

 

俺は自分の家の寝室で、彼女(現在の妻)と一緒の布団に入って横になっていた。

 

部屋の電気は消え、いつでも眠れる状態。しかし、俺は寝たり目覚めたりを繰り返していて、一晩中意識が宙に浮いている感じが続いた。

 

しっかり寝つけず悩む俺の横で、彼女はスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている。

 

深夜3時を過ぎた頃、ようやく俺は眠りにつき始めたようで、少し不思議な夢を見た。

 

ーーーーーーーーーー

 

俺は、見知らぬ男性と薄暗い地下通路に立っていた。男性は、服装からし霊媒師の類だろう。

 

通路の幅は、大人2人が横並びでギリギリ立てるくらい。先は薄い霧のようなものが立ち込めていてよく見えない。

ところどころに曲がり角があるので、迷路のような作りになっているようだ。

 

通路の先から、彼女がこちらに歩いてきた。

まっすぐ俺たちを見つめている。

 

そんな彼女を見た霊媒師の男性は、

 

『連れてきちゃってますね。私が除霊しましょう』

 

とつぶやき、彼女の方に向かって歩き始めた。

 

俺から見た彼女は一人だったが、霊媒師には何か霊的なものも一緒に見えたのだろう。

 

霊媒師が彼女とすれ違った瞬間、彼女の背後に2人の男性が現れた。

今までは確かにいなかった、少なくとも俺には見えていなかった。

 

男性2人とも、顔に生気がない。

おそらく彼らが、霊媒師の言った「連れてきちゃった」ものの正体だろう。

 

霊媒師が彼女の横を通り過ぎると、男性2人は彼女から離れて、霊媒師の後を追うように歩き始めた。

霊媒師が通路の角を曲がると、男性2人も曲がり、完全に姿が見えなくなった。

 

あの先で除霊を行うのだろうか。俺のような一般人には、その手法は見せられないのかもしれない。

 

とりあえず、彼女についていたものは払ってもらえるようで、少し安心した。

霊媒師とか、幽霊みたいな男性とかが出てきたから、どんな怖い展開になるのかと思いきや大したことなさそうである。

 

ーーーーーーーーーー

 

直後、俺は背中に当たる何かの感触で目が覚めた。

いや、半分目覚めて、半分寝ているような状態だったと思う。

 

部屋の中は暗く、夜はまだ明けていない。

 

その感触というのは、隣で寝ていた彼女の手だった。

寝ているうちに、俺は彼女に背を向ける体勢になっていたようだ。

 

彼女はそのまま俺に話しかけてきた。

 

『霊ってついて来ちゃうんだね』

 

夢の中で、霊媒師が連れて行った男性2人のことを言っているのだろう。

 

今思えば、俺がさっき見たばかりの夢の内容を彼女が知っているのはおかしい。

だが、当時の俺は寝ぼけていたので、そんなことにも気づかなかった。

 

『まぁ、そういうこともあるんじゃね?』

 

何気なく返事をすると、彼女は続けた。

 

『じゃあこれは?』

 

ん……?一体何のこと………

 

『う”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”え”ぇ”ぇ”え”え”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”ぇ”え”ぇ”え”ぇ”え”ぇ”ぇ”え”え”ぇ”ぇ”え”ぇ”え”ぇ”ぇ”ぇ”』

 

突然異様なうなり声が聞こえ、俺は飛び起きた。

 

彼女は隣で横になり、スマホを操作していた。慌てている俺の様子に気づくと、目を丸くしてこちらを見てきた。

 

『大丈夫か!?』

 

俺は彼女に確認した。

彼女からしたら俺に「大丈夫か!?」と聞きたい気分だっただろう。

 

うなり声は彼女のものだったように感じた。

でも、声はかすれていて、古いカセットテープに録音した声を再生した感じ。普通の声ではない。

今まで聞いたことのない彼女の奇妙な声に、俺は背筋に寒気を感じた。

 

彼女に異変がないことを確認して、また眠ろうと思ったが、さっきの声が耳にこびりついていて、結局朝まで眠れなかった。

 

ーーーーーーーーーー

 

翌朝、彼女に聞いたところ、確かに深夜目が覚めて俺の背中を手で触れたそうだ。

俺が「まぁ、そういうこともあるんじゃね?」と言ったのも聞いたらしい。

 

しかし、「霊ってついて来ちゃうんだね」という言葉はもちろん、うなり声も出していないとのこと。

嘘をついてるわけではなさそうだった。

 

何もかもが俺の勘違いだとしたら、「悪い夢を見た」で片付く出来事だろう。

だが、現実に起きたことと俺しか体験していないことが入り混じっているからか、全てを夢で片付けるのはなんだか腑に落ちない。

 

それから数年、あのうなり声を聞いてはいないものの、妻の隣で寝る夜は、少し身構えてしまう。

【怖い話】思い出のタイムカプセル

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小学校6年生の時の話。

 

卒業を1ヶ月後に控え、私のクラスでは「何か思い出に残ることをやろう」と、みんなで企画を考えていた。

 

あれこれ話し合い、決まったのが「タイムカプセル」。

 

クラスメイトそれぞれが思い出の品を1つずつ持ってきて、箱の中に入れ、校庭の片隅に埋める。そして10年後に掘り起こす。

 

企画としてはかなりベタ。ただでさえありきたりなのに、入れるものまで普通のものでは、掘り返すのを忘れてしまいかねない。

 

だから、それぞれちょっと変わったものを入れて、タイムカプセルの存在を忘れないようにするという方針になった。

 

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それから10年以上経ち、私は大学を卒業する年になった。そして、小学校に埋めたタイムカプセルを掘り返す約束の年でもある。

 

生き物が持つ「忘れる」という機能は恐ろしいもので、自分が何を入れたのか結局思い出せない。

確かに、当時の自分にとって変ったものを入れたはずなのだが、月日が経つにつれて記憶の奥底に埋もれてしまったようだ。

 

それでもタイムカプセルの存在自体を忘れなかったのには、理由がある。

 

当時のクラスメイトに、ミツルくんという男の子がいた。

 

おとなしい性格で、友達は多い方ではなかった。会話したことは、1〜2回あっただろうか。

私以外のクラスメイトたちも、ミツルくんに対して同じような印象を抱いていたと思う。

 

私がタイムカプセルに入れたものと同じように、本来なら記憶の片隅にも残らない子であろうミツルくん。

しかし、彼の存在が地中に埋めたタイムカプセルを私の脳裏に焼き付けた。

 

ミツルくんは、タイムカプセルに自分の奥歯を入れていた。

しかも、ついさっき抜いたばかりと思われる、血や歯肉が付着した歯だった。

 

生々しさと発想の異様さに、クラスメイト全員が引いていた。泣き出す女の子もいた。

 

普段周りの人とコミュニケーションを取らない、得体の知れないミツルくんがやったものだから、余計に怖く感じたものだ。

 

当時ミツルくんは『試してみたいことがある』と語っていた。

自分の奥歯をタイムカプセルに入れて試したいこと……私には想像もつかない。

 

卒業後、私はミツルくんと別の中学校に進学した。後から聞いた話だと、ミツルくんは進学後間も無く自殺してしまったそうだ。

手首を刃物で切り、湯船に浸かった状態で発見されたらしい。

 

遺書などは残されてなく、自殺の原因は不明。いじめなどがあったわけでもないそうで、ご両親も何がきっかけになったのかわからないらしい。

 

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私を含め、当時のクラスメイト5人が集まり、小学校に向かった。

10年も経つと、連絡を取り合っている者も限られてくる。今日集まったのは、卒業してからも頻繁に会っていた、まだ生きているつながりだけ。

 

小学校の事務員さんに事情を話し、タイムカプセルを掘り返す許可をもらった。

校庭の西門近く、土が軟らかくなっている花壇のような場所に埋めたはず。

 

記憶を頼りに、シャベルで土を掘る。自分の脳内に埋没した記憶を掘り起こす作業のようにも感じた。

 

あった。土中の水分で濡れないよう、ゴミ袋に入れられた大きめの箱。

だいぶ年季が入っているが、当時埋めたタイムカプセルに間違いない。

 

達成感と懐かしさから、私たちは歓喜の声をあげた。

 

しかし、すぐにミツルくんと彼の奥歯のイメージが私の脳裏をよぎった。

タイムカプセルが当時のままということは、おそらくミツルくんの奥歯も入っているはず。

 

さっきまでの歓喜を忘れ、深妙な表情をしている私を見て、友人たちも黙り始めた。

私の気持ちを察したようだ。

 

ここまで話題にはしなかったが、いや、あえて避けていたのだが、みんなミツルくんの奥歯のことを覚えていたのだろう。

 

このままタイムカプセルを開けるのは、本当に正しいことなのだろうか。

当時の記憶を振り返るのは、私たちにとって幸せなことなのだろうか。

一瞬にして様々な考えが頭の中を巡る。

 

それでも、この記憶の箱を開けなければ、せっかく掘り返した意味がない。

鬼が出ようが蛇が出ようが、奥歯が出ようが開けるしかない。

 

友人の一人がゴミ袋を破り、タイムカプセルの蓋を開けた。

 

ミツルくんの奥歯は昔のまま……だったらどれほどよかっただろうか。

 

タイムカプセルの中には、人間の頭部が入っていた。

その顔は、紛れもなく小学6年生の時のミツルくんだった。

 

ミツルくんの両目がギョロリとこちらを向いた。

生きている。

 

あり得ない状況が目の前で起き、私たち全員が叫び声をあげた。

 

そんな私たちを見ながら、ミツルくんが話し出した。

 

『久しぶり。みんな当時の面影が残っているね。すぐわかったよ。ほら見て、成功したんだ。正真正銘のタイムカプセルだよ』

 

まるで同窓会にでも来たかのように、彼は笑顔を浮かべながら話しかけてくる。

こちらはそれどころではない。わけのわからないことが多すぎる。

 

恐々としている私たちを尻目に、ミツルくんは続ける。

 

『でもまだ頭だけなんだ。もう少しこのまま埋めといてもらえるかな。もう10年くらい。そしたら、完全に成功したって言えると思うんだ』

 

しばらく動けなかった私たちだが、ミツルくんの言うようにタイムカプセルの蓋を閉め、もう一度埋めた。

 

これがミツルくんがタイムカプセルに奥歯を入れた理由、『試したいことがある』と語っていた理由だったのだろうか。

 

何も見ていない。

私たちの間では、そうすることにした。

 

今日の出来事は、また記憶の中に埋めてしまおう。

しかし、今度は前と違って簡単な作業ではないと思う。

『忘れる』というシャベルでいくら掘っても、見えなくなるまで埋めらるだろうか。

 

死体遺棄の罪に問われるのではないか、と心配する友人もいた。

しかし、ミツルくんは死んでいたわけではなく、生き返ろうとしていたわけで。罪には問われないと思う。

 

何年後かに、タイムカプセルの存在を思い出した当時の同級生が、また掘り起こすかもしれない。

 

少なくともそれは、私たち5人ではないだろう。

【怖い話】となりの彼


私の名前はジロギン。

 

これは私が大学4年生だった頃の話です。
9月にサークルの同級生たちと、少し早めの卒業旅行をすることになりました。

 

実際のところ、旅行なんて程遠い、遊園地に日帰りで行くだけの遠足だったんですけどね。

男5人、女3人の8人で行くことになりました。

 

 

その遊園地は都市部からやや離れたところにあり、絶叫系アトラクションが有名です。

当日は雲ひとつない晴れ。絶好の絶叫アトラクション日和。

行きのバスでは全員が


「〇〇(ジェットコースター名)乗ろうね!最初に乗ろうね!」


と、バカな大学生のようにはしゃいでいたのを覚えています。

 

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朝一のバスで出発したものの、園内に着いてみると、お目当てのジェットコースターの前には長蛇の列。


並ぶのも退屈ですし、正直あまりジェットコースターが得意ではない私は、


「やめとかない?この列だよ?乗るまでに4日くらいかかるでしょ?」


と提案したものの、バカな大学生たちは、走り出したイノシシのように止まりません。


2時間ほど並んで、ようやく私たちの順番が回ってきました。

 


ジェットコースターは、2人が横並びに乗るよくあるタイプのもの。
私の右隣には、メガネをかけた男の同級生が座りました。

 

その彼はあまりサークルに顔を出さず、忘れた頃にやってくる確定申告のような感じのメンバー。私も顔を合わせたことはそう多くはなく、少し話しにくさがありました。

が、私としてはそれ以上に、ジェットコースターの怖さの方が気がかりでした。

 


発車して、どんどんレールを登って行くジェットコースター。
高さはウルトラの父の身長を超えていたと思います。


ジェットコースターが、頂点に達したその時でした。
私の右に座っていた彼が、両手で私の首をグッと締めてきたのです。


もちろんジェットコースターは止まるはずもなく、そのまま急降下。
コースターの走行音と風が吹く音で聞き取りにくかったですが、彼は、

 

「ねぇ?どっちが怖い?ボクとジェットコースターどっちが怖い?ねぇ!?ねぇ!?」

 

と私に言っていたようです。

 


このままでは命に関わる。なんとか抵抗しようとした私は、

 

「ジェットコースターに決まってんだろうがぁ!!」

 

と叫びながら、彼の股間をグイィっと、わし摑んだんです。ぶどう狩りをしたときのことを思い出しながら。

 

彼がひるんだ一瞬のスキをつき、私は腕を振り払うことに成功。

そうこうしてるうちに、ジェットコースターはゴールに到着しました。

 

私はほぼ無意識に

 

「ジェットコースターに決まってんだろうが…怖いから…何百万人も乗りに来てるんだろうが…」

 

と、彼につぶやいていました。

 


その後も遊園地を楽しみましたが、彼が私以外のメンバーに同じようなことをしてる様子はなく、私にも何もしてきませんでした。

 


あなたの身近でも、こんなことが起こるかもしれません

それでは、おやすみなさい。

 

【都市伝説】Yシャツの上にジャージを着る先生が伝えたい授業より大切なメッセージ

 

私の名前はジロギン。

 

ついに来たね。とうとう来ちゃったよね。

長い間秘密にされてきた事実を、解き明かす時が来ちゃったんだよね。

 

あなたの学生時代、Yシャツの上にジャージを着ている先生、いませんでしたか?

一見ミスマッチな組み合わせ。つい「ダサいなぁ」なんて思ったこともあるでしょう。

 

一般的に、先生がこのような格好をしている理由は、「チョークの粉がついてもジャケットが汚れないようにジャージを着ている」なんて言われてるよね。

でも、そんな理由だけで、ファッションに敏感な10代の学生数十人の前で、あのような格好で授業なんて教えられないと思うんだよね。

普通の精神力で耐えられるわけがないんだよね。

 

先生がYシャツとジャージを着るのは、もっと重要な理由あるとしか思えないでしょ?

そうつまり、学生たちに対して、ある特別なメッセージを発信しているってこと。

 

今回はその秘密を解き明かしていきます。この謎の真相を知った時、あなたの常識はガラリと変わるでしょう。

 

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95%以上の先生が「メッセージを送っている」

まずこのデータを見てほしいんですけど。

とある調査機関が、2016年に「Yシャツとジャージを一緒に着る教師2000人」に対して行ったアンケート結果なんだよね。

 

「なぜYシャツとジャージを着るのか?」と質問したら、驚きの結果になったんだよね。

 

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約95%以上の教師が「生徒たちにメッセージを送るため」と答えたの。

ね?すごいでしょ?

 

さらにすごいことに、この95%の教師たちがまったく同じメッセージを生徒たちに送っていたんだよね。

 

Yシャツとジャージに込められてメッセージとは

じゃあ、先生たちが学生たちに伝えたいメッセージをは一体何なのか?

この謎を解き明かしていくよ。

 

まずYシャツとジャージを英語に直してみると、

 

「Y shirt」「Jersey」

 

となるのは、周知の事実だよね。

この2つの英単語の頭文字をとると「Y」「J」

 

この「YJ」に身に覚えない?

そうヤングジャンプ(Young Jump)」だよね。

 

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出典:ヤングジャンプ

 

Yシャツとジャージを着ている先生は、生徒たちにヤングジャンプ」の存在をメッセージとして伝えてるってこと。

 

ね?やばいでしょ?

パンドラの匣を開けちゃったでしょ?

 

 

若い世代にとって「ジャンプ」と言ったら、「週刊少年ジャンプ」なんだよね。

歴史あるマンガ雑誌で、「ドラゴンボール」「ワンピース」「ナルト」「ハンターハンター」など、たくさんの名作を世に送り出してきた週刊少年ジャンプ

子供達にとっては、バイブルだよね?

 

でも先生たちは、ジャンプの中には「ヤングジャンプ」もあるんだよってことを、暗示しているってこと。

 

ね?言った通りでしょ?

これまでの常識ががらりと変わっちゃったでしょ?

 

なぜこんなメッセージを発信するのか?

このメッセージを知って、あなたはむしろ「ヤングジャンプをすすめるための方が、ダサい格好をする理由として不当だ」と思ったんじゃないかな?

 

でもこのメッセージは、学校の授業よりもっと大切なもの。

先生たちが生徒たちを守るための重要なメッセージなんだよね。

 

 

年頃の学生たちは、みんな少なからず「性」に興味がわいてくるでしょ?

これは誰だって避けられないことなんだよね。

するとどうなる?そう、アダ○トサイトを利用しちゃうよね?

 

でもアダ○トサイトは、危険がたくさんあるでしょ?

時には架空請求で、子供たちがダマされてしまうこともあるよね。

先生たちはその危険を「ヤングジャンプ」によって回避してほしいと、子供達に伝えているってこと。

 

ヤングジャンプは少年ジャンプに比べて、性的な描写を含んでいるマンガが多いでしょ?

若い子たちにとっては、これでも十分満足できるはずなんだよね。

 

さらに、ヤングジャンプの巻頭には、グラビアのページもあるでしょ?

まさに、思春期にうってつけの雑誌なんだよね。

 

それから、ヤングジャンプは雑誌だから、買えばそれ以上にお金を請求されることはない。安全に「性」の興味を満足させることができる代物なんだよね。

 

でも、教育者である先生が、自分の口からそんなことは言えないでしょ?

だからYシャツとジャージという姿をすることで、学生たちに伝えているってこと。

 

 

ね?やばいでしょ?

あの姿にはこんなメッセージが込められていたんだよね。

このメッセージに気付けるかどうかで、犯罪に巻き込まれるリスクも少なくなるってことだよね。

学生の選別はもう始まっちゃってるんだよね。

 

信じるか信じないかは、あなた次第。

 

 

これはあくまでも都市伝説です。

今夜も、おやすみなさい。

 

【怖い話】家庭の事情

 

私の名前はジロギン。

 

自分が育った家庭、または自分が親となって作った家庭以外が、どんな環境なのかは、わからないですよね?

 

友達がどんな家族構成なのか、親戚の家ではどんなルールがあるのか、近しい人でも知らないことは多いです。

 

知らないことがあると、つい知りたくなってしまうのが人間ってものです。

でも、知らない方がいい家庭の事情というものも、あると思います。

 

 

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ある小学校で働くT先生(35歳男性)はこの日、学校の授業終わりで家庭訪問に出ていました。

子供達の家庭での様子を知れる機会ではありますが、T先生にとって家庭訪問は憂鬱だったのです。

 

原因は、いわゆる「モンスターペアレント」の存在。

愛想よく接してくれるご両親もいるのですが、どのクラスにも一定数、モンスター化してしまった親もいます。

口を開けば「学校の教育体制はどうなっているのか?」「先生の指導が甘い」「〇〇くんとは別のクラスにしてほしい」なんてことを言われてしまうのです。

 

昨日T先生が訪れた家では、お母さんに

「息子がお箸を上手に持てないのは、先生が給食の時間にお箸の持ち方を教えないせい」

なんて言われてしまいました。

 

でも給食は食事の時間であって、指導の時間ではありません。

「さすがにお箸の持ち方くらいは家庭で教えるべきでは・・・」と思ったT先生でしたが、口に出すことはできませんでした。

 

何か反論すれば、すぐにPTAで問題にされてしまうでしょう。

教師という仕事の大変さを一番痛感するのが、この家庭訪問なのでした。

 

 

さらに憂鬱なことに、この日行くのは、PTA会長のKさん(49歳女性)のご自宅。

何かいちゃもんをつけられる確率は100%。

T先生は断頭台にでも向かうような気持ちで、Kさん宅のインターフォンを押しました。

 

 

Kさん

「息子はうちでいつも『T先生の授業は面白い!』って話してますよ!

できれば、卒業するまで毎年T先生のクラスがいいんですけど・・・

そんなわがままは通用しませんよねぇ?」

 

 

T先生の予想に反して、KさんはT先生のことを大絶賛。

Kさんの広い一軒家の、大きなリビングにある大きなソファに座っているT先生は、あまりの褒めっぷりに、ちょっとした国の王様にでもなった気分でした。

 

 

Kさん

「学校ではどうですか?うちの息子は?」

 

T先生

「クラスのみんなと仲良しですし、最近はテストの点数も良くなってきています。

私の目から見ても、順調な生活を送れていると思いますよ」

 

Kさん

「やだぁ、本当ですか?そこまで言われちゃうとねぇ、あの子も調子に乗っちゃいますよぉ」

 

 

T先生は思ってもないことを言ってしまいました。

Kさんの息子というのは、実は学年でも屈指の問題児。クラスメイトのいじめには必ずKさんの息子が関係しているし、成績も下から数えた方が早いくらい。

しかし、自分があまりにも褒められたので、T先生はいい気になってしまったのでした。

 

 

Kさん

「それじゃあ、お話も済んだことですし、そろそろお帰りになられては?」

 

 

T先生がKさんの家に着いてから5分も経っていません。しかしKさんは、いち早く帰って欲しそうにしていました。

T先生も他に話したいことはありましたが、これ以上いれば褒め言葉が次第に文句に変わってしまうかもしれません。

できれば早く帰りたいところでした。

 

席を立ったT先生でしたが、突然、尿意を感じました。

 

 

T先生

「申し訳ないのですが、お手洗いを貸していただけますでしょうか?」

 

Kさん

「・・・ええ!もちろん。リビングを出たら廊下を左に進んでいただいて、一番奥がトイレです!

・・・あっ、トイレの右横にドアがあると思うんですが、絶対に開けないでくださいね。」

 

 

T先生はリビングを出てトイレに向かいました。Kさんの言った通りトイレの横には扉があり、部屋になっている様子。

 

T先生は尿を足しながら、Kさんの言葉が気になりました。「絶対に開けないでください」という言葉が。

 

絶対に開けるな、と言われてしまうと、つい気になってしまうもの・・・

でも人様の部屋を勝手にのぞくなんて、マナー違反にもほどがあります。

それでも気になるT先生は、トイレの壁に耳を当て、隣の部屋の音を聞いてみました。

 

・・・ァ"・・・ァ"・・・ァ”・・・

 

声?なのか?それともすきま風が入る音なのか?

判別できないほどかすかな音だけが聞こえてきました。その直後、

 

 

ドンドンドンドンドンドンッ!!!

 

 

T先生が耳をつけていた壁を強く叩く音が聞こえました。

T先生は驚いて、壁から耳を離し、しばらく動けなくなってしまいました。

 

ドッドッドッドッドッドッドッ!

 

今度は誰かが廊下を走る音が聞こえました。

音はだんだんと近くなり、トイレの横の部屋の扉が開く音も聞こえました。そして、

 

ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!

 

鈍い音が数回聞こえた後、また扉が開き、近づいてきた人物が部屋から遠ざかっていく音がしました。

 

壁の向こうで何かが起きている・・・T先生は怖くなり、急いでKさんの家を出ることにしました。

 

 

Kさん

「それじゃあ先生、息子のことよろしく頼みますね。帰り道はお気をつけて」

 

T先生

「はい・・・それでは失礼します」

 

 

笑顔で送り届けるKさんの10mほど背後。さっきのトイレの横にある扉がゆっくりと開くのが、T先生には見えました。

そして部屋の中からは、やせ細った血まみれの、男性か女性かもわからない老人が這い出てきました。

 

 

Kさん

「・・・T先生、このことは、口外しないようにお願いします」

 

T先生

「・・・」

 

 

T先生は玄関を出て扉を閉めました。

家の中からはまた、鈍い音が数発聞こえました。

 

 

それでは、おやすみなさい。

 

【怖い話】変わったお楽しみ

  

私の名前はジロギン。

 

これは私が中学2年生の時、同じ部活動だった友人Bくんから聞いた話です。

当時私のクラスはA組、BくんはC組でした(ややこしくてすみません)。

 

ある日、C組で席替えをやったそうです。

1人ずつくじを引いて、くじに書いてある番号と同じ番号の席に座る。ありきたりな席替えですね。

 

やっぱり人気なのは、一番後ろの窓際の席。先生の目が届きにくい席です。

幸運なことに、Bくんはその席になることができました。

しかも、隣の席は学年でも1、2を争うくらいかわいい女子。Bくんにとってはラッキーすぎる状況になったのです。

 

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その日の英語の授業にて。

Bくんが隣の席の女子の方をチラッと見ると、顔を下に向けるようにしてうずくまっていたそうです。

 

体調が悪いのかなと心配していると、女子の「ハァ・・・ハァ・・・」と小さい息遣いが聞こえました。

そして、その子がスカートの中に左手を入れているのも見えました。

文字にはしませんが、その女子は、授業中に大胆にも「そういうこと」をしていたのです。

 

 

Bくんはお年頃な中学2年生の男子。大好物な光景が隣の席で行われているのです。

しかも、学年でトップクラスに可愛い女子によるソレが・・・

 

Bくんは机に突っ伏して、寝たふりを始めました。

腕の下から、ちょうどその子のスカートが見えたのです。

 

しばらく見ていると、女子はスカートから左手を出し始めました。

「もう終わりか」とちょっとがっかりしたBくんでした。が、その直後、目を疑いました。

 

女子は左手に、小さなムカデを持っていたのです。

ずるずると、ムカデがスカートの中から出てきました。

 

 

Bくんは目をそらし、授業が終わるまで顔を上げられなかったそう。

人それぞれ、楽しみ方は違います。変わった楽しみ方をしている人もいるものです。

 

 

それでは、おやすみなさい。

 

【怖い話】深夜のささやき

 

私の名前はジロギン。

 

一人暮らしって、心細くて、どこか怖さがありますよね。

事件や事故が起こった時に、自分一人で対応できるだろうか・・・?

そんな不安が、さらに怖さを感じさせます。

 

不安が大きくなるごとに、ちょっとした物音でも怖く感じてしまうものです。

 

今回は、一人暮らしをしている、ある女子大生のお話。

 

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Fさん(18歳)は大学進学をきっかけに、愛知県から東京都に引っ越してきました。

実家を離れて、初めての一人暮らし。

犯罪に巻き込まれたり、火事を起こしてしまったり、生活費が足りなくなってしまったり・・・不安はたくさんありました。

 

Fさんが暮らし始めたアパートは、住宅街にある築40年近いボロアパート。部屋は2階の「205号室」。

さびた鉄製の、太った人が乗れば足を踏み抜いてしまいそうな階段を上って、廊下の一番奥にある部屋。

廊下は、周りの建物の関係で昼間でも薄暗く、夜はさらに不気味。たまに蛍光灯が切れかけて、電気がバチバチとなっていることも。

お化けが出ても逆におどろかないくらい、不気味な雰囲気でした。

 

Fさんは学生で、収入はアルバイト代しかありません。実家から仕送りしてもらっているものの、あまり裕福はできない経済状態。

どうしても、古くて家賃の安いアパートに住むしかなかったのです。

 

 

一人暮らしを始めて3ヶ月ほどが経った夏。

その日、Fさんはアルバイトで帰りが遅くなり、アパートに着いたのは夜の0時過ぎ。

周りには人の気配もなく、街は完全に寝静まっていました。

 

静かな夜はいいものですが、静かすぎると、アパートの廊下がさらに怖く感じてしまいます。

Fさんは階段を上がり、廊下に差し掛かりました。

 

勇気を出して1歩1歩自分の部屋に近づくFさん。

あと少し、204号室を通り過ぎようとした瞬間に

 

「おかえり」

 

野太い男の声が聞こえました。

 

 

Fさんは、隣に住む204号室の住人とは面識はなく、どんな人が住んでいるかも知りません。

Fさんはすぐに、引っ越すことを決めました。

 

 

それでは、おやすみなさい。