【怖い話】思い出のタイムカプセル

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小学校6年生の時の話。

 

卒業を1ヶ月後に控え、私のクラスでは「何か思い出に残ることをやろう」と、みんなで企画を考えていた。

 

あれこれ話し合い、決まったのが「タイムカプセル」。

 

クラスメイトそれぞれが思い出の品を1つずつ持ってきて、箱の中に入れ、校庭の片隅に埋める。そして10年後に掘り起こす。

 

企画としてはかなりベタ。ただでさえありきたりなのに、入れるものまで普通のものでは、掘り返すのを忘れてしまいかねない。

 

だから、それぞれちょっと変わったものを入れて、タイムカプセルの存在を忘れないようにするという方針になった。

 

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それから10年以上経ち、私は大学を卒業する年になった。そして、小学校に埋めたタイムカプセルを掘り返す約束の年でもある。

 

生き物が持つ「忘れる」という機能は恐ろしいもので、自分が何を入れたのか結局思い出せない。

確かに、当時の自分にとって変ったものを入れたはずなのだが、月日が経つにつれて記憶の奥底に埋もれてしまったようだ。

 

それでもタイムカプセルの存在自体を忘れなかったのには、理由がある。

 

当時のクラスメイトに、ミツルくんという男の子がいた。

 

おとなしい性格で、友達は多い方ではなかった。会話したことは、1〜2回あっただろうか。

私以外のクラスメイトたちも、ミツルくんに対して同じような印象を抱いていたと思う。

 

私がタイムカプセルに入れたものと同じように、本来なら記憶の片隅にも残らない子であろうミツルくん。

しかし、彼の存在が地中に埋めたタイムカプセルを私の脳裏に焼き付けた。

 

ミツルくんは、タイムカプセルに自分の奥歯を入れていた。

しかも、ついさっき抜いたばかりと思われる、血や歯肉が付着した歯だった。

 

生々しさと発想の異様さに、クラスメイト全員が引いていた。泣き出す女の子もいた。

 

普段周りの人とコミュニケーションを取らない、得体の知れないミツルくんがやったものだから、余計に怖く感じたものだ。

 

当時ミツルくんは『試してみたいことがある』と語っていた。

自分の奥歯をタイムカプセルに入れて試したいこと……私には想像もつかない。

 

卒業後、私はミツルくんと別の中学校に進学した。後から聞いた話だと、ミツルくんは進学後間も無く自殺してしまったそうだ。

手首を刃物で切り、湯船に浸かった状態で発見されたらしい。

 

遺書などは残されてなく、自殺の原因は不明。いじめなどがあったわけでもないそうで、ご両親も何がきっかけになったのかわからないらしい。

 

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私を含め、当時のクラスメイト5人が集まり、小学校に向かった。

10年も経つと、連絡を取り合っている者も限られてくる。今日集まったのは、卒業してからも頻繁に会っていた、まだ生きているつながりだけ。

 

小学校の事務員さんに事情を話し、タイムカプセルを掘り返す許可をもらった。

校庭の西門近く、土が軟らかくなっている花壇のような場所に埋めたはず。

 

記憶を頼りに、シャベルで土を掘る。自分の脳内に埋没した記憶を掘り起こす作業のようにも感じた。

 

あった。土中の水分で濡れないよう、ゴミ袋に入れられた大きめの箱。

だいぶ年季が入っているが、当時埋めたタイムカプセルに間違いない。

 

達成感と懐かしさから、私たちは歓喜の声をあげた。

 

しかし、すぐにミツルくんと彼の奥歯のイメージが私の脳裏をよぎった。

タイムカプセルが当時のままということは、おそらくミツルくんの奥歯も入っているはず。

 

さっきまでの歓喜を忘れ、深妙な表情をしている私を見て、友人たちも黙り始めた。

私の気持ちを察したようだ。

 

ここまで話題にはしなかったが、いや、あえて避けていたのだが、みんなミツルくんの奥歯のことを覚えていたのだろう。

 

このままタイムカプセルを開けるのは、本当に正しいことなのだろうか。

当時の記憶を振り返るのは、私たちにとって幸せなことなのだろうか。

一瞬にして様々な考えが頭の中を巡る。

 

それでも、この記憶の箱を開けなければ、せっかく掘り返した意味がない。

鬼が出ようが蛇が出ようが、奥歯が出ようが開けるしかない。

 

友人の一人がゴミ袋を破り、タイムカプセルの蓋を開けた。

 

ミツルくんの奥歯は昔のまま……だったらどれほどよかっただろうか。

 

タイムカプセルの中には、人間の頭部が入っていた。

その顔は、紛れもなく小学6年生の時のミツルくんだった。

 

ミツルくんの両目がギョロリとこちらを向いた。

生きている。

 

あり得ない状況が目の前で起き、私たち全員が叫び声をあげた。

 

そんな私たちを見ながら、ミツルくんが話し出した。

 

『久しぶり。みんな当時の面影が残っているね。すぐわかったよ。ほら見て、成功したんだ。正真正銘のタイムカプセルだよ』

 

まるで同窓会にでも来たかのように、彼は笑顔を浮かべながら話しかけてくる。

こちらはそれどころではない。わけのわからないことが多すぎる。

 

恐々としている私たちを尻目に、ミツルくんは続ける。

 

『でもまだ頭だけなんだ。もう少しこのまま埋めといてもらえるかな。もう10年くらい。そしたら、完全に成功したって言えると思うんだ』

 

しばらく動けなかった私たちだが、ミツルくんの言うようにタイムカプセルの蓋を閉め、もう一度埋めた。

 

これがミツルくんがタイムカプセルに奥歯を入れた理由、『試したいことがある』と語っていた理由だったのだろうか。

 

何も見ていない。

私たちの間では、そうすることにした。

 

今日の出来事は、また記憶の中に埋めてしまおう。

しかし、今度は前と違って簡単な作業ではないと思う。

『忘れる』というシャベルでいくら掘っても、見えなくなるまで埋めらるだろうか。

 

死体遺棄の罪に問われるのではないか、と心配する友人もいた。

しかし、ミツルくんは死んでいたわけではなく、生き返ろうとしていたわけで。罪には問われないと思う。

 

何年後かに、タイムカプセルの存在を思い出した当時の同級生が、また掘り起こすかもしれない。

 

少なくともそれは、私たち5人ではないだろう。