【怖い話】家庭の事情

 

私の名前はジロギン。

 

自分が育った家庭、または自分が親となって作った家庭以外が、どんな環境なのかは、わからないですよね?

 

友達がどんな家族構成なのか、親戚の家ではどんなルールがあるのか、近しい人でも知らないことは多いです。

 

知らないことがあると、つい知りたくなってしまうのが人間ってものです。

でも、知らない方がいい家庭の事情というものも、あると思います。

 

 

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ある小学校で働くT先生(35歳男性)はこの日、学校の授業終わりで家庭訪問に出ていました。

子供達の家庭での様子を知れる機会ではありますが、T先生にとって家庭訪問は憂鬱だったのです。

 

原因は、いわゆる「モンスターペアレント」の存在。

愛想よく接してくれるご両親もいるのですが、どのクラスにも一定数、モンスター化してしまった親もいます。

口を開けば「学校の教育体制はどうなっているのか?」「先生の指導が甘い」「〇〇くんとは別のクラスにしてほしい」なんてことを言われてしまうのです。

 

昨日T先生が訪れた家では、お母さんに

「息子がお箸を上手に持てないのは、先生が給食の時間にお箸の持ち方を教えないせい」

なんて言われてしまいました。

 

でも給食は食事の時間であって、指導の時間ではありません。

「さすがにお箸の持ち方くらいは家庭で教えるべきでは・・・」と思ったT先生でしたが、口に出すことはできませんでした。

 

何か反論すれば、すぐにPTAで問題にされてしまうでしょう。

教師という仕事の大変さを一番痛感するのが、この家庭訪問なのでした。

 

 

さらに憂鬱なことに、この日行くのは、PTA会長のKさん(49歳女性)のご自宅。

何かいちゃもんをつけられる確率は100%。

T先生は断頭台にでも向かうような気持ちで、Kさん宅のインターフォンを押しました。

 

 

Kさん

「息子はうちでいつも『T先生の授業は面白い!』って話してますよ!

できれば、卒業するまで毎年T先生のクラスがいいんですけど・・・

そんなわがままは通用しませんよねぇ?」

 

 

T先生の予想に反して、KさんはT先生のことを大絶賛。

Kさんの広い一軒家の、大きなリビングにある大きなソファに座っているT先生は、あまりの褒めっぷりに、ちょっとした国の王様にでもなった気分でした。

 

 

Kさん

「学校ではどうですか?うちの息子は?」

 

T先生

「クラスのみんなと仲良しですし、最近はテストの点数も良くなってきています。

私の目から見ても、順調な生活を送れていると思いますよ」

 

Kさん

「やだぁ、本当ですか?そこまで言われちゃうとねぇ、あの子も調子に乗っちゃいますよぉ」

 

 

T先生は思ってもないことを言ってしまいました。

Kさんの息子というのは、実は学年でも屈指の問題児。クラスメイトのいじめには必ずKさんの息子が関係しているし、成績も下から数えた方が早いくらい。

しかし、自分があまりにも褒められたので、T先生はいい気になってしまったのでした。

 

 

Kさん

「それじゃあ、お話も済んだことですし、そろそろお帰りになられては?」

 

 

T先生がKさんの家に着いてから5分も経っていません。しかしKさんは、いち早く帰って欲しそうにしていました。

T先生も他に話したいことはありましたが、これ以上いれば褒め言葉が次第に文句に変わってしまうかもしれません。

できれば早く帰りたいところでした。

 

席を立ったT先生でしたが、突然、尿意を感じました。

 

 

T先生

「申し訳ないのですが、お手洗いを貸していただけますでしょうか?」

 

Kさん

「・・・ええ!もちろん。リビングを出たら廊下を左に進んでいただいて、一番奥がトイレです!

・・・あっ、トイレの右横にドアがあると思うんですが、絶対に開けないでくださいね。」

 

 

T先生はリビングを出てトイレに向かいました。Kさんの言った通りトイレの横には扉があり、部屋になっている様子。

 

T先生は尿を足しながら、Kさんの言葉が気になりました。「絶対に開けないでください」という言葉が。

 

絶対に開けるな、と言われてしまうと、つい気になってしまうもの・・・

でも人様の部屋を勝手にのぞくなんて、マナー違反にもほどがあります。

それでも気になるT先生は、トイレの壁に耳を当て、隣の部屋の音を聞いてみました。

 

・・・ァ"・・・ァ"・・・ァ”・・・

 

声?なのか?それともすきま風が入る音なのか?

判別できないほどかすかな音だけが聞こえてきました。その直後、

 

 

ドンドンドンドンドンドンッ!!!

 

 

T先生が耳をつけていた壁を強く叩く音が聞こえました。

T先生は驚いて、壁から耳を離し、しばらく動けなくなってしまいました。

 

ドッドッドッドッドッドッドッ!

 

今度は誰かが廊下を走る音が聞こえました。

音はだんだんと近くなり、トイレの横の部屋の扉が開く音も聞こえました。そして、

 

ドスッ!ドスッ!ドスッ!ドスッ!

 

鈍い音が数回聞こえた後、また扉が開き、近づいてきた人物が部屋から遠ざかっていく音がしました。

 

壁の向こうで何かが起きている・・・T先生は怖くなり、急いでKさんの家を出ることにしました。

 

 

Kさん

「それじゃあ先生、息子のことよろしく頼みますね。帰り道はお気をつけて」

 

T先生

「はい・・・それでは失礼します」

 

 

笑顔で送り届けるKさんの10mほど背後。さっきのトイレの横にある扉がゆっくりと開くのが、T先生には見えました。

そして部屋の中からは、やせ細った血まみれの、男性か女性かもわからない老人が這い出てきました。

 

 

Kさん

「・・・T先生、このことは、口外しないようにお願いします」

 

T先生

「・・・」

 

 

T先生は玄関を出て扉を閉めました。

家の中からはまた、鈍い音が数発聞こえました。

 

 

それでは、おやすみなさい。